最新フィリピン住宅価格指数動向 by BSP
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フィリピン中央銀行(BSP)が公表した2025年第2四半期の住宅価格指数(RPPI)は、フィリピンの不動産市場が地域間および物件タイプ間で異なる成長軌道を辿っていることを示しています。
全国の住宅価格は前年同期比で7.5%上昇し、住宅ローン(RREL)の実行額も14.7%増と、総じて市場の活況が継続していることを裏付けています。特に、消費者の住宅購入に対する楽観的な見方が強まっていることが、市場の下支え要因です。
このデータを不動産投資家目線で深掘りする際、まず理解しておくべきは、市場を構成する主要地域の動向です。NCR(National Capital Region)はフィリピンの首都圏、すなわちマカティー市、BGC、マニラ市、ケソン市などの主要都市で構成されるメトロ・マニラを指します。AONCR(Areas Outside of NCR)は首都圏外の地域全体を指し、このAONCRの成長を牽引するのが、CALABARZON(カラバルソン地域)です。CALABARZONは、カビテ(Cavite)、ラグナ(Laguna)、バタンガス(Batangas)、リサール(Rizal)、ケソン(Quezon)の5つの州の頭文字をとった名称であり、住宅ローン市場の約3割を占める主要な経済圏です。
そして、現在市場を最も力強く牽引しているのが、AONCRの中でも特に高い価格上昇率(13.2%)を記録したBalance Greater Manila Area(Balance GMA)です。これはNCR(首都圏)を除いた広域マニラ圏(GMA)の一部であり、具体的にはNCRに隣接するブラカン(Bulacan)、カビテ(Cavite)、ラグナ(Laguna)、リサール(Rizal)といった通勤圏内の州の一部を指します。
このBalance GMAやセブ都市圏といった地方主要都市への需要分散とインフラ整備の効果が現れてきています。AONCR全体でも価格は11.5%と高い伸びを示し、特に戸建てやタウンハウスなどの「Houses(水平型開発)」の価格が前年比13.1%と、市場全体の成長を力強く牽引しています。地方の実需に根ざした水平型開発への投資は、有効な戦略オプションとなるでしょう。
一方で、基本的には、投資家が最も戦略的に捉えるべきは、NCRにおけるコンドミニアム市場の動向です。第2四半期において、NCRの住宅価格上昇は2.4%に鈍化し、コンドミニアム価格は全国平均でマイナス0.2%に転じました。この短期的な価格上昇の勢いが一服した状況は、市場の調整局面として捉えることができるでしょう。世界的なビジネス拠点であるマニラ首都圏の一等地の価値は、人口増加と経済発展を背景に、中長期的に堅調と見られています。現在の価格の停滞やわずかな下落(NCRの四半期ベースは3.6%減)は、将来のキャピタルゲインを目的として、優良なコンドミニアム物件を戦略的に「安値で仕込む:Buy the Dip」の好機と見ることもできます。
総括すると、現在のフィリピン不動産市場は、地方の水平型開発への投資が短期的な成長を享受できる一方で、首都圏のコンドミニアム市場は長期的な視点を持つ投資家にとって、安値で仕込むチャンスとも捉えられます。
注釈:
BSP(Bangko Sentral ng Pilipinas)は、フィリピン中央銀行の略称です。金融政策の実施や銀行の監督などを担っており、フィリピン経済に関する公式統計(今回の住宅価格指数など)を発表する機関です。
RPPI(Residential Property Price Index)は、住宅価格指数の略称です。フィリピン国内の住宅価格の変動を時系列で測定するためにBSPが算出しており、銀行が提供する実際の住宅ローンデータに基づいているため、不動産市場と信用市場の状況を把握する上で重要な指標となります。