フィリピン経済の「踊り場」:IMF下方修正から見る強靭性と成長の行方
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国際通貨基金(IMF)は最新のレポートにおいて、フィリピンの2025年および2026年の国内総生産(GDP)成長率予測を下方修正しました。具体的には、2025年の予測を従来の5.4%から5.1%へ、2026年を5.7%から5.6%へとそれぞれ引き下げています。この修正は、2025年第3四半期の成長率が4.0%という、パンデミック期を除けば約14年ぶりの低水準に沈んだことを反映したものです。この成長鈍化の背景には、国内における洪水対策プロジェクトを巡る汚職疑惑や政治的混乱が、政府支出や消費者・投資家のマインドを冷え込ませたことが大きく影響しています。
外部環境に目を向けると、世界的な貿易政策の不透明感や地政学的な緊張も、輸出や投資の重石となっています。IMFは、特に関税障壁の強化が、負の影響を与えると警告しています。また、頻発する気候変動による自然災害も、マクロ経済における大きなリスク要因として挙げられました。これらにより、フィリピン政府が掲げる6%〜7%という成長目標の達成は、4年連続で見送られる可能性が濃厚となっています。
一方で、今回の下方修正は決してフィリピン経済の「失速」を意味するものではありません。IMFは、インフレ率については2025年に1.7%、2026年に2.8%と、政府目標の2%〜4%の範囲内で安定して推移すると予測しています。物価の安定は、今後中央銀行がさらなる利下げを行うための余地を生み出し、民間消費の回復を下支えするでしょう。また、中期的な成長潜在力については依然として6%前後を維持していると評価されており、経済の基礎体力自体は東南アジアの中でトップクラスの強さを保っています。
今後の鍵を握るのは、政府が進める構造改革の実行力です。IMFは、統治能力(ガバナンス)の強化や法の支配の徹底、汚職リスクの軽減が、投資家の信頼を回復するために不可欠であると強調しています。また、人的資本の拡充やインフラ整備を継続することで、外部ショックに強い強靭な経済構造を構築することが期待されています。足元の成長率は目標に届かないものの、内需の底堅さと物価の安定を背景に、フィリピン経済は次なる成長局面へ向けた調整段階にあると捉えることができます。
IMFによる下方修正は、政治的不透明感や外部環境の悪化という現実を直視した冷静な評価と言えますが、5%台の成長維持は世界的に見れば依然として高水準です。汚職問題やインフラ停滞といった国内課題を早期に解消できれば、物価安定の恩恵を背景にした内需の再燃が期待できます。投資家としては、短期的な指標の変動に一喜一憂せず、フィリピンが持つ高い潜在成長率が再び発揮されるための構造改革の進捗を注視すべきでしょう。
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