厳しい米関税にもかかわらず、フィリピン経済は第3四半期5.8%成長を見込む
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フィリピンの経済成長率は、2025年第3四半期に前年同期比で5.8%に上昇すると、アジア太平洋大学(UA&P)が最新の経済見通し『The Market Call』で発表しています。これは2024年の同四半期の5.2%、2025年第2四半期の5.5%を上回る水準であり、政府の通年成長目標5.5~6.5%の下限にも一致します。米国からの関税引き上げという逆風がある中で、比較的穏やかな台風シーズンという追い風が成長を支えるとしています。
家計消費は引き続き堅調で、インフレ率が抑えられていることが背景にあります。ただし、海外フィリピン人労働者(OFW)の送金に対する新たな米国の課税が消費をやや抑えているとの指摘もあります。
インフレ率は、2025年7月にほぼ6年ぶりの低水準となる0.9%にまで低下しました。電気・ガスや食品の価格が引き続き落ち着いていることが寄与しており、7か月間の平均でも1.7%と、中央銀行の目標である年2~4%を下回っています。
政府のインフラ支出も第3四半期には回復傾向にあります。これは、2025年の議会選挙に伴う公共事業の一時的な支出停止(3月28日~5月12日までの45日間)があったため、より顕著に戻りつつあると報じられています。
一方で、住宅建設は高水準の政策金利と市中金利によって抑制された状態です。中央銀行(BSP)は、2024年8月以降に利下げサイクルを開始し、これまでに累計125ベーシスポイントの利下げを実施しており、現在の政策金利は年率5.25%です。
米ドルに対するフィリピン・ペソの為替レートは、将来的にBSPおよび米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利の動きに左右され、「基本的にはドル高ペソ安傾向」と見られています。
国内債券市場の先行きも明るく見られています。インフレの鈍化、政府の2025年借入計画のほぼ全額調達、およびBSPが年内にさらに50ベーシスポイントの利下げを計画していることから、後半期の市場環境は好転すると期待されています。
ただし、米国の関税引き上げと世界経済の減速というリスクも依然として存在しています。ANZ Bankは、サービス収支の伸び鈍化や、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)セクターにおけるAIの浸透による中低スキル労働者の代替リスクなどを指摘しています。また、米国向け輸出需要が弱まれば、フィリピンの貿易収支にも影響が出る可能性があるとしています。
総評・分析:
フィリピン経済は、米国関税や世界経済の不透明さという逆風を抱えつつも、堅調な内需とインフレの抑制、そしてインフラ支出の回復が支えとなり、2025年第3四半期には5.8%の成長が見込まれています。この成長率は政府目標の下限に一致しており、経済が比較的安定した軌道にあると評価できます。
家計消費の持続、低インフレ、政策金利の引き下げ余地、公共投資の回復は、内需主導の成長を後押しする有力な要素です。特にインフレ低下は中央銀行の金融政策を緩和できる好機であり、投資や消費のさらなる活性化が期待されます。
ただし、住宅建設が金利負担で弱含みである点や、米国関税の影響による輸出市場の不確実性、BPOなどのセクターにおける構造変化の可能性など、注意すべきリスクも存在します。
総じて、中期的には堅調な成長基調が続く可能性が高いものの、外部ショックへの備えと内需のさらなる強化、特に輸出セクターの多角化や技術変革への対応が持続的成長を支える鍵となるでしょう。
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