フィリピンA格付けへの道とガバナンス改善
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格付け会社S&Pグローバル・レーティングスによる信用格付け引き上げの機会が、数々の不正行為が絡む数十億ペソ規模の治水プロジェクトを巡るスキャンダルによって阻まれたことが、このたび明らかになりました。
ラルフ・G・レクト財務長官は、上院の予算聴聞会の傍らで記者団に対し、「治水問題さえなければ」S&Pは年内に格付けを引き上げる準備ができていたと述べ、この汚職問題が政府の努力を水泡に帰したとの認識を示されました。
現在フィリピンがS&Pから付与されている格付けは「BBB+」であり、これは政府が目標とする「A」レベルの一段階下に位置しています。S&Pは2024年11月にこの「BBB+」を再確認するとともに、格付けの見通しを「安定的」から「ポジティブ」に引き上げており、「ポジティブ」の見通しは、今後2年間で改善が持続すれば格付けが引き上げられる可能性があることを示していました。それだけに、今回のスキャンダルによる引き上げ見送りの影響は大きいと見られています。
この論争は、「幽霊プロジェクト」や政府の治水プログラムにおける資金の不正流用を含み、議会、会計検査委員会、オンブズマン、インフラ独立委員会の調査を招いています。政府の治水プロジェクトでは、水増しされた契約やペーパーカンパニーを通じて数十億ペソもの公的資金が流用されたとされており、マルコス政権に対する監視が強まっています。格付け会社は機関の信頼性や財政運営を評価する際に、支出の非効率性やガバナンス(統治)の欠陥を綿密に監視しており、今回のスキャンダルはまさにそれに該当するものでした。
レクト長官は、今後2年間で「A」格を取得できるかとの問いに対し、「そうあってほしい」と答え、数十億ペソの汚職スキャンダルにもかかわらず、現在の格付けは維持される可能性が高いが、引き上げの可能性はより大きかったと、惜しまれる気持ちを表明しました。長官は、政府はガバナンスを改善し、数か月以内に治水問題を解決する必要があると強調しています。さらに、一部議員が提案している付加価値税(VAT)の税率引き下げも、国の信用格付けにとってリスクとなる可能性があると警告しました。
専門家の意見も同様に、今回のスキャンダルはガバナンスリスクのために格付け引き上げの勢いを遅らせたとしています。、信頼は成長率だけでなく、公的資金がどれだけクリーンに使われるかにかかっていると指摘しています。最終的に、格付け機関にとって最も重要なのは、改革が実行され、ガバナンスが強化されているという明確なシグナルであるとされています。
信用格付けとは、国や企業などが発行する債券や、その発行体自体の信用力を評価し、アルファベットや記号でランク付けした指標のことです。これは専門の格付け会社によって付与され、債務不履行(デフォルト)となる可能性を測る、いわば「通信簿」のような役割を果たしています。
格付けが上がると、発行体である国や企業にとっては、信用リスクが低いと見なされるため、資金調達の際に低い利回り(金利)を設定できるようになり、資金調達コストを削減できるという大きな効果があります。一方、投資家にとっては、投資対象の安全性が高まるため、安心して投資できる判断材料が増え、結果として世界中のマネーを呼び込みやすくなることで、市場の安定化にも寄与します。
また、投資適格基準とは、信用リスクが低く、機関投資家の投資基準を満たす格付け水準のことを指します。一般的に、S&Pやフィッチなどの格付け会社では「BBB」格以上、ムーディーズでは「Baa」格以上がこの投資適格とされ、これ未満の格付けは「投機的格付け」(ハイ・イールド債)と呼ばれています。投資適格の格付けを持つことで、より多くの機関投資家からの安定的な資金流入が期待できるようになります。
今回の治水汚職スキャンダルは、フィリピンが目指す「A」格取得の勢いを一時的に停止させる要因となりました。信用格付けは、単なる経済指標ではなく、ガバナンスや透明性といった非財務的な要素にも大きく左右されることを示しています。今後、政府が徹底した改革と説明責任を果たすことが、国際的な信頼を回復し、再び格付け引き上げへの道筋を確実にする鍵となります。
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