政策緩和とガバナンス・リスクが交錯するフィリピン経済の岐路
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フィリピン経済は、内需の堅調さに支えられた底堅い基盤を保ちつつも、現在、金融緩和による追い風と、国内の深刻なガバナンス・リスクという二つの大きな力が拮抗する「岐路」に立たされています。
2025年第3四半期のGDP成長率は5.2%となりました。通年の成長見通しについては、以前の5.6%から5.2%へ、2026年も6.0%から5.4%へとそれぞれ下方修正されました。これは、経済活動の勢いが、パンデミック後の過去4年間の平均的なトレンドに沿って推移しているものの、見通しに慎重さが加わったことを示唆しています。成長を牽引しているのは引き続き家計消費と堅調なサービス部門ですが、今般の汚職疑惑に起因する混乱が、公共投資を含む建設業や製造業といった他の重要な部門の勢いを削いでいる状況になっています。
この複雑なマクロ環境の中で、投資家が注目すべきは、二つの対照的な要素のバランスです。一つ目の要素は、フィリピン中央銀行(BSP)と米連邦準備制度理事会(FRB)によるな金融緩和の動きです。BSPは、インフレの沈静化と成長のサポートを理由に、政策金利をサプライズも含めて4.75%まで引き下げており、FRBも利下げを示唆するなど、日本を除く世界に対して金融緩和サイクルへの期待が高まっています。
金利低下は、理論的には企業の資金調達コストを抑制し、ビジネスや株式市場のセンチメントを回復させ、融資を伸ばすことで、資産価格全体を押し上げる強い追い風となります。実際、ABキャピタル証券の感応度分析では、金融緩和と信用拡大が組み合わさる「楽観シナリオ」では、成長率が6.5%に達する可能性が示されています。
しかしながら、二つ目の要素である国内ガバナンスの深刻な問題が、この金融緩和による恩恵を大きく限定する可能性を秘めています。特に、高額な治水プロジェクトを巡る「ゴースト(実体のない)プロジェクト」汚職スキャンダルは、政府への投資家信頼を著しく損なっています。中央銀行も、ガバナンス懸念によりビジネス信頼感が弱まっていることを認め、成長率が政府目標を下回る可能性を示唆しています。このようなガバナンスの欠如は、投資家が要求するリスクプレミアムを必要以上に引き上げ、インフラ関連プロジェクトへの投資の遅延を招く恐れがあります。
また、外部環境においても、トランプ政権による新たな関税措置が、輸出関連セクターに約0.8ポイント程度の成長率押し下げ要因となり得るなど、リスクが山積しています。この分析は、協調的な利下げが約1.3ポイントの成長押し上げ効果を持つとしても、汚職や関税ショックといった負の要素がその効果を相殺し、「政策の信頼性」と「法の支配」の回復こそが、持続的な経済成長の鍵であることを示唆してます。
不動産や金融株への投資家にとって、利下げ局面は資金調達コストが緩和され、住宅ローンや企業向け融資の拡大が期待できるため、本来は強気相場を形成しやすい環境下にあります。しかし、現在の状況では、ガバナンス問題を巡る逆風が、そのバリュエーションの再評価の幅を制限する可能性があります。基礎的な金融環境は改善しつつも、不正に対する懸念が、再評価のマルチプル(倍率)を抑える可能性があります。ガバナンス改革の進展という明確なシグナルが本格上昇のトリガーとなるでしょう。
マクロのボラティリティに対する耐性の高い国内消費関連やサービス業が、経済のレジリエンスを支える柱となります。一方で、汚職主導型の景気後退は、建設やインフラ関連銘柄に大きな打撃を与える可能性が高く、外部環境では、米国による新たな関税措置が、エレクトロニクスや農産物加工品など、輸出志向型のセクターに逆風をもたらすことが予想されます。
投資家は、経済成長のレンジが4.2%から6.5%に広がるという高い不確実性の中で、リアルタイムの経済指標を注視し、機動的にポートフォリオを調整する規律が求められます。BSPやFRBからの政策に関する発言一つ一つが、市場のボラティリティを高める局面であり、データに基づいた判断と、多角的な視点からのポートフォリオの分散化を徹底することが、この「岐路」を乗り切るための最善の戦略であると考えられます。
https://abcapital.bluematrix.com/docs/html/4d49fde8-766b-400a-b1d4-6982710db27f.html
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