2025年第3四半期マニラ住宅市場レポート by LeeChiu 〜回復基調示す〜
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Leechiu Property Consultantsが発行した2025年第3四半期のマニラ住宅市場レポートは、フィリピンのコンドミニアム市場が「Gaining Traction(回復基調)」にあることを示しています。これは、需要の回復と新規発売物件の減少により、在庫水準が下がった結果です 。投資家として注目すべきは、この回復の質と、それに伴うリスク要因です。
1) 経済のファンダメンタルズと需要の強さ
フィリピンの経済基盤は引き続き堅調です。2025年上半期のGDPは前年同期比で5%増加し、海外で働くフィリピン人(OFW)からの国内への送金も3.1%増加しており、これが住宅市場の需要を支える基本的な要因となっています 。
この堅調なファンダメンタルズを背景に、メトロマニラの新築コンドミニアム市場で販売されたユニット数は、7四半期ぶりの高水準に達しました 。新規発売ユニット数(New Launches)がQ2 2025の1,761ユニットに対しQ3 2025で1,766戸とほぼ横ばい(+0.3%)であったのに対し、販売ユニット数(Units Sold)はQ2 2025の6,643戸からQ3 2025で7,713戸に16%増加しました 。これにより、メトロマニラの未販売在庫は79,400ユニットに減少、市場全体の在庫水準は31か月分に縮小しています 。
2) セグメント別動向と価格の二極化
興味深いのは、この市場回復が中間所得者層セグメントの低迷を伴っている点です 。Q3 2025の販売ユニット数を前四半期(QoQ)で比較すると、高所得層(High-End)や富裕層(Luxury)を含むアップスケール以上の市場が強いのに対し、中間所得者層(Middle-Income)セグメントは依然として低迷しており、購買力の制約が示唆されています 。
不動産価格の動向を見ると、フィリピン中央銀行が出している2025年第2四半期のNCR(マニラ首都圏)の住宅価格指数(RPPI)は下落しました 。これは、コンドミニアム価格の低下が主因であり、ディベロッパーによる割引価格設定や、二次市場での売却意欲(motivated secondary sales)が影響していると分析されています 。投資家にとっては、価格調整が進んだ優良物件に仕込みのチャンスとなるかもしれません。同時に、市場全体の価格上昇モメンタムの強さを注視することが重要です。
3) 賃貸市場の課題と投資指標
賃貸市場では、「Rental Corrections Persist(賃料の下落が継続)」しており、特にベイエリア/パサイ地区で顕著な下落が見られます 。これは、POGO(フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーター)撤退の影響が依然として残っているためです 。主要地区のQ3 2025における平均賃料(Price/sqm)は、マカティが888ペソ/平方メートル、BGCが1,140ペソ/平方メートルで、ほとんどの地区で前四半期比(QoQ)および2020年第1四半期(パンデミック前水準)比で下落しています 。
その結果、賃貸利回り(Rental Yields)は2.5%から7.9%の範囲にあり、不動産投資家にとってやや控えめなリターンに留まっています 。一方、平均住宅ローン金利は7月~8月で7.3%~8.9%と、中央銀行が利下げ局面に入っているものの、未だ高水準となっています。
4) 総評
マニラ住宅市場は、需要増と供給の引き締まりにより、ネガティブ要因も残しながら、全体としてはポジティブな方向に向かっている状況です。
ポジティブ要因: 在庫水準の低下(31ヶ月分)、経済成長、高所得者層の需要。
ネガティブ要因: 賃料の下落、高金利、中間所得者層の購買力制約。
賃料下落の影響が小さい、または高所得者層の需要が強いBGCやマカティーなどのプライムエリア 、および高価格帯(アッパースケール~ラグジュアリー)のセグメントが安定しています 。
価格調整局面にあるコンドミニアム価格 は、長期的な視点での割安な仕込みの機会を提供する可能性があります。株式投資家であれば、中間層向けを主力とするデベロッパーよりも、アッパーミドル以上をターゲットとするデベロッパーの業績に注目が集まるでしょう。
(NOTE)
Leechiu Property Consultantsは、フィリピンの不動産市場において、専門的なコンサルティングサービスを提供する企業です。その事業内容は多岐にわたり、オフィス、工業団地、住宅、そして複合用途不動産といった国内の主要な不動産セクター全てを取り扱っています。
特に、市場の動向を深く掘り下げた同社のレポートは、業界のプロにとって必須のアイテムとなっています。
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