フィリピン経済の成長と課題 by BPI
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フィリピン経済は、東南アジアの近隣諸国に比べてさらに後れを取るリスクに直面しているという、エコノミストの見解が報じられています。フィリピン・アイランド銀行(BPI)の主任エコノミストであるエミリオ・S・ネリ・ジュニア氏は、現状の成長率が続けば、フィリピンがシンガポールの経済水準に追いつくには70年かかる可能性があると指摘しています。
この見解の背景には、フィリピンの国内総生産(GDP)成長率の鈍化があります。第3四半期のGDP成長率は4%と、過去4年以上で最も低いペースを記録しました。これは、家計支出と公共インフラ支出の減速に加え、汚職スキャンダル(洪水対策スキャンダル)が投資家と消費者の心理を冷え込ませたことが大きな要因とされています。この結果、政府が掲げる通年の成長目標(5.5%〜6.5%)の達成は困難になっています。
ネリ氏は、フィリピンの1人当たりGDPは2024年時点で4,078ドルであり、シンガポール(90,674ドル)などの近隣諸国と比較して低い水準にあることを強調しています。試算によれば、他の国々の所得が停滞するという非現実的な前提のもとでも、格差がさらに広がる可能性が高いと警告しています。特にパンデミック前はフィリピンより低かったベトナムに、現在では追い抜かれてしまっているという現状を挙げました。
そして、ネリ氏は、フィリピンの現行の経済モデルを変革するための構造改革が不可欠であると主張しています。現在の経済は、海外フィリピン人労働者(OFW)からの送金やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業に牽引される消費支出に過度に依存しています。
実際のデータを見ると、フィリピンのGDPに対する個人消費の比率は75%前後(2024年時点)と極めて高く、これは一般的に消費主導とされるアメリカやイギリスなどの先進国の水準(約65%〜68%)を上回り、アジアの主要国である日本や韓国の比率(50%前後)と比較しても顕著に高い水準です。
この高い消費依存は、巨大な人口と海外送金に支えられた内需の強さを示す一方で、生産性の向上や長期的な成長に向けた課題を内包しています。個人消費がGDPの大部分を占めるということは、GDPに占める投資や輸出(純輸出)の比率が相対的に低いことを意味します。消費は経済を短期的に下支えしますが、持続的な高成長を達成し、他国との経済格差を縮めるためには、企業による設備投資やインフラ投資を促し、生産能力を強化することが不可欠です。
フィリピン経済は、長期的な競争力に直結する投資の不足という構造的な問題を抱えているため、成長の源を多様化し、特にベトナムの成功の鍵となった農業や製造業といった生産分野の改善に注力し、経済の自給自足を高め、海外市場への進出を促進すべきだと提言しています。
しかしながら、ネリ氏は、政府の焦点が定まらないとこれらの改革の実行は困難になると述べています。公共支出に関する問題(汚職など)が、財源と政策決定の焦点を長期的な開発目標から逸らしているためです。
また、成長維持のために金融政策に頼らざるを得ない状況についても言及されています。フィリピン中央銀行(BSP)は利下げを続けると予想されていますが、成長率の低さを補うために過度な利下げが行われると、将来的に急激な利上げを余儀なくされるリスクがあるとしています。野村証券などからは、汚職スキャンダルによる予期せぬ財政引き締めが景気後退をもたらし、中央銀行が予想以上に金融緩和を進める可能性があるとの見解も示されています。一方で、早すぎる、あるいは過度な金融緩和は資本流出や自国通貨安を招きかねないため、BSPがデータに基づき、警戒心を持って政策のバランスを取る重要性を指摘する声もあります。
総評:
本記事は、フィリピン経済が構造的な課題と汚職問題によって成長の勢いを失い、地域内の経済格差が拡大している現状を浮き彫りにしています。特に、先進国並みに高い個人消費比率が示す消費依存型経済からの脱却と、投資の促進を通じた生産性の向上という構造改革の必要性が強調されています。財政規律と政治的安定性が確保されなければ、長期的な経済発展の達成は困難であるという警鐘を鳴らしています。
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